HENRYではFIREできない! 高収入なのに資産が増えない人々のリアル

HENRY

HENRYとは高収入だが資産が少ない層のこと。都市部の共働き世帯に多く、日本でも生活費や教育費の高さから貯蓄が難しい実態があります。FIRE(経済的自立・早期リタイア)を目指すには、収入よりも支出と可処分所得のバランスが重要。HENRY的生活はその逆を行く構造になっているのです。

HENRYとは

“HENRY”(発音:ヘンリー)とは、“High Earners, Not Rich Yet”の略で、直訳すると「高収入だがまだ裕福ではない人々」を指します。この言葉は2003年、米ビジネス誌『Fortune』の記者ショーン・タリーによって初めて使われました。彼は、税金・住宅費・教育費などの高額な支出により、十分な資産形成ができていない高収入層の存在を指摘し、この概念を紹介しました。

「Henry」は人名としても馴染み深いため、言葉遊びのような軽妙さもあり、米国ではマーケティング用語としても定着しています。

HENRY層の典型は、アメリカの都市部に住む年収10万〜30万ドル(約1500万〜4500万円)の個人、または共働きで世帯年収20万〜70万ドルに達する家庭です。彼らは医師、弁護士、金融系などの高収入職に就いている一方で、生活コストや教育費、ローンなどの固定支出が多く、可処分所得が限られているため、なかなか資産が増えません。

このような現象は、「ライフスタイル・インフレーション(生活水準の上昇が支出を押し上げる現象)」によって助長され、高年収であっても「経済的余裕を感じられない中間層」に陥る要因となっています。

このHENRY層の特徴は、FIRE(Financial Independence, Retire Early=経済的自立と早期リタイア)というライフスタイルと本質的に対照的です。FIREは、支出を抑え、余剰資金を積極的に資産運用に回すことで、早期の経済的自由を実現するものですが、HENRYはその逆を行く存在です。収入が多くても支出も多いため、投資に回せる余力が乏しく、FIREの達成が遠のいてしまうのです。

典型的なHENRY

HENRY層の収入・支出の内訳について、米国の状況をもとに紹介します。

HENRY層の収入水準

HENRY層の収入水準は、情報源によって若干の違いがありますが、一般的には以下の範囲のようです:

  • 個人年収:10万〜30万ドル(約1500万〜4500万円)
  • 世帯年収(共働き):20万〜70万ドル(約3000万〜1億500万円)

このような収入層は、都市部を中心に一定数存在しており、金融資産の形成が進みにくいという共通の悩みを抱えています。

典型的な例

以下は、年収30万ドル(約4500万円)の共働き家庭(アメリカ・サンフランシスコ在住)の一例です。出典はFinancial Samuraiの記事「Why Households Need To Earn $300,000 A Year To Live A Middle Class Lifestyle Today」です。

収入

  • 世帯年収:300,000ドル(約4500万円)

主な年間支出

  • 住宅ローン(税・保険込):46,800ドル(約702万円)
  • 保育費(2児):24,000ドル(約360万円)
  • 食費(家庭・外食):25,200ドル(約378万円)
  • 自動車費用(2台):10,800ドル(約162万円)
  • バカンス・旅行:10,000ドル(約150万円)
  • 衣服・育児・雑費:10,000ドル(約150万円)
  • 医療保険と自己負担:8,400ドル(約126万円)
  • 老後資金の積立(401k等):36,000ドル(約540万円)
  • 子ども向け教育・貯金:24,000ドル(約360万円)
  • 税金(連邦・州・社会保障等):76,160ドル(約1142万円)

合計支出

  • 271,360ドル(約4070万円)

このように、年収30万ドルを得ていながらも、可処分所得はごくわずかで、年間の貯蓄は1万ドル以下にとどまるケースも多く見られます。

日本におけるHENRY

HENRYという用語自体は日本ではあまり一般的ではありませんが、実態として似たような層は確実に存在しています。以下は、日本における典型的なHENRY層の特徴です。

想定されるHENRY層

  • 都市部に住む共働きの会社員(いわゆるDINKs)
  • 医師、弁護士、大手企業・外資系勤務者
  • 年収1000〜2000万円の個人または世帯

こうした層は、収入が高く見えるものの、東京や大阪など都市部では

  • 高額な住宅ローン(毎月15〜20万円)
  • 保育費や習い事などの教育費(年間100万円以上)
  • 所得税・住民税(年収1500万円で約350万円)
  • 社会保険料(年間150万円以上)

といった支出が積み重なり、実質的な可処分所得はそれほど多くありません。

たとえば、港区に住む年収1500万円の共働き家庭が、私立小学校に通わせる、住宅ローンを組む、都心で保育園・習い事を利用する――というライフスタイルを選択すると、

  • 毎月の固定支出が100万円前後になる
  • 貯蓄は月数万円しかできない
  • 投資に回す余裕がない

という「高収入・低余裕」状態に陥る可能性があります。

著者の知人の事例

筆者の知り合いにも、HENRY的なライフスタイルを送っている方がいます。その家庭は世帯年収が1500万円近くあるものの、都心部にある家賃数十万円マンションに住み、お子さんをインターナショナルスクールに通わせています。そのため、貯蓄や投資に回せる余裕資金がほとんどなく、生活水準を維持するために日々のやりくりに苦労しているとのことです。

家族の希望として、「都心での便利な生活スタイルを捨てたくない」という意向があり、郊外へ移るなどのコストダウンは現実的ではないようです。しかし、収入が今後大きく増える見込みもないため、支出構造の見直しができなければ、資産形成はますます困難になる可能性があります。

まとめ

HENRYとは、単に「高収入な人々」というだけではなく、収入の大きさに比べて資産が増えないというパラドックスを抱えた層です。生活コストが高く、可処分所得や貯蓄に回す余力が乏しいため、経済的な自由が遠のいてしまうという特徴があります。

日本でも、都市部に住む共働き世帯や専門職の中には、HENRY的なライフスタイルに陥っているケースが少なくありません。特に、年収が上がるにつれて支出も膨らむ「ライフスタイル・インフレーション」は、見過ごせない課題です。

一方で、FIRE(Financial Independence, Retire Early)は、生活コストを意識的に抑えつつ、長期的な投資により資産を築き、早期リタイアを可能にするライフスタイルです。可処分所得を増やし、計画的に資産を積み上げることが前提となるFIREと、日々の支出に追われるHENRY的な生き方は、真逆の方向を向いていると言えるでしょう。

FIREを本気で目指すなら、まずはこの“HENRY体質”を見直すことが必要です。支出の構造を見直し、資産形成のための戦略を立てることこそが、経済的自由への第一歩になります。

参考文献・リソース