富裕層ピラミッドで見る日本の格差拡大──でもアメリカは異次元だった

富裕層ピラミッド

はじめに

「日本にはどのくらいのお金持ちがいるのか?」「中間層と呼ばれる人たちは今どのくらい存在しているのか?」こうした疑問は、多くの人が気になるテーマではないでしょうか。テレビやSNSでは日々、“富裕層”や“格差社会”という言葉が飛び交い、関心は高まる一方です。

たとえば、金融資産が1億円以上ある「富裕層」と呼ばれる人たちは、いったいどれほどの割合を占めているのでしょうか?また、収入も貯蓄もある程度ある「中間層」は、今も日本の大多数を占めているのでしょうか?それとも、かつてのような“厚い中間層”という構造は崩れつつあるのでしょうか?

こうした世帯の資産分布を知ることは、社会の今を理解し、未来を見通すための重要な手がかりとなります。個人の生活設計においても、「自分はどの層に位置するのか」「どのように資産を形成すべきか」を考えるヒントにもなるはずです。

本記事では、野村総合研究所(NRI)が定期的に公表している、いわゆる「富裕層ピラミッド」のデータをもとに、日本における資産階層の全体像を整理します。さらに、アメリカとの比較を通して、日本の格差の現状と今後の行方についても掘り下げていきます。


NRIの富裕層ピラミッドとは?

日本の資産分布を定量的に把握するうえで、最も信頼できる調査の一つが、野村総合研究所(NRI)が公表している「富裕層ピラミッド」です。これは、日本国内の世帯を対象に、純金融資産額に基づいて層別化し、その分布を可視化したものです。

NRIでは、金融資産(預貯金、株式、投資信託など不動産を除く)の保有額をもとに、世帯を5つの層に分類しています。これにより、「お金持ち」と言われる人々がどれくらい存在するのか、また中間層やそれ以下の層がどの程度の割合を占めるのかが見えてきます。

以下は、2023年に公表された最新の富裕層ピラミッドデータです。どの層にどれだけの世帯が存在しているのか、世帯数と構成比率の両面から確認していきましょう。

日本の富裕層ピラミッド(2023年推計)

金融資産保有額世帯数(万世帯)割合
超富裕層5億円以上10.30.2%
富裕層1億円以上5億円未満146.72.8%
準富裕層5,000万円以上1億円未満705.613.4%
アッパーマス層3,000万円以上5,000万円未満710.513.5%
マス層3,000万円未満4,654.470.0%
富裕層ピラミッド2023

この分類は、「純金融資産」(不動産を除く)に基づいており、投資可能な流動資産の大きさに着目しています。


2021年と2023年の比較

NRIの調査結果を2021年と2023年で比較すると、日本国内における資産分布の構造に大きな変化が生じていることが明らかになります。特に注目すべきは、中間層の縮小とマス層(金融資産が3,000万円未満の層)の増加、そして富裕層の拡大という3つのポイントです。

この変化は、日本における格差の広がりを示唆するものであり、単なる経済的な数値の変動にとどまらず、社会全体の構造変化にも大きく関係しています。物価上昇や税負担の増大などの影響で、かつては準富裕層やアッパーマス層に分類されていた世帯が、資産の目減りによりマス層へと移行していることも考えられます。

また一方で、投資環境の追い風を受けて、上位層の一部はさらに資産を増やし、富裕層や超富裕層へとステップアップしています。こうした構造的な移動に注目することで、今後の社会階層の流動性についても考察が可能となるでしょう。

ピラミッド構造の変化(2021 vs 2023)

2021年(万世帯)2023年(万世帯)増減
超富裕層9.610.3+0.7
富裕層133.2146.7+13.5
準富裕層712.5705.6-6.9
アッパーマス層732.2710.5-21.7
マス層4,460.64,654.4+193.8
富裕層ピラミッド 2021 vs 2023

上の図は「超富裕層」の差がわかりづらいので、横軸(世帯数)を対数表記にした図も挙げておきます:

富裕層ピラミッド 2021 vs 2023 対数表記


アメリカの方がもっと格差が大きかった

日本での格差拡大に対して「やばい」と感じた人も多いかもしれませんが、アメリカのデータを見ると、その感覚がむしろ甘かったことに気づかされます。実際には、アメリカの富裕層は資産集中の度合いが桁違いで、格差構造の深刻さがより極端なのです。

アメリカでは、上位層が保有する資産の割合が非常に高く、特に上位1%の富裕層による株式や不動産の所有が、下位90%の資産保有量を圧倒しています。これは、金融資産を持つ者と持たざる者との間に明確な境界線が引かれている状態であり、日本よりもさらに固定化された格差社会の姿といえるでしょう。

また、アメリカでは投資可能資産額に応じて世帯数や総資産額が大きく偏在しており、最上位の富裕層が全体の資産の大部分を保有しています。中間層の比率も年々減少傾向にあり、1970年代の「中流階級国家」の面影は徐々に薄れつつあります。以下の表は、そうした実態を裏付けるデータです。

まずは日本の各層(上から超富裕層、富裕層、純富裕層、アッパーマス層、マス層)の全世帯の資産合計の分布です。

日本の富裕層マーケット(2019年)

純金融資産額世帯数(万世帯)総資産額(兆円)
5億円以上8.497
1億〜5億円124.0236
5,000万〜1億円341.8255
3,000万〜5,000万円712.5245
3,000万円未満4,215.2603
富裕層ピラミッド 日本 総資産

これに対し、アメリカでは以下のような分布となっており、上位層への資産集中度の違いが際立ちます。

米国の富裕層マーケット(2019年)

投資可能資産額(USD)世帯数(万世帯)総資産額(兆USD)
350万ドル以上20019.7
100万〜350万ドル未満59010.6
50万〜100万ドル未満600?4.5
25万〜50万ドル未満8803.1
10万〜25万ドル未満1,5502.6
10万ドル未満(参考)8,7301.6
富裕層ピラミッド アメリカ 総資産

この表を見ると、最上位200万世帯(全体の数%)が約20兆ドルを保有している一方で、最多ボリューム層である8,730万世帯が持つのはたった2.6兆ドル。アメリカの格差は、まさに桁違いです。


まとめ

日本でも中間層が減少し、富裕層とマス層に二極化している傾向は確かにあります。とはいえ、アメリカと比べるとまだピラミッド型の構造は保たれており、格差が完全に固定化された社会とは言いがたい側面もあります。

とはいえ、このまま金融リテラシーの差や投資機会の格差が広がれば、将来的に日本もアメリカのような”格差社会”に近づく可能性があります。特に、若年層や現役世代が資産形成をしにくくなる環境が続けば、社会全体の安定性にも影響を及ぼすことになるでしょう。

その意味でも、資産形成や金融教育はますます重要なテーマとなっていきます。自分がどの資産階層に属しているのかを把握し、将来的な目標を持って行動することが、個人の安心だけでなく、社会全体の持続可能性にもつながるはずです。

本記事を通じて、読者の皆さんが自分の立ち位置を知り、今後の資産形成やライフプランを考えるきっかけになれば幸いです。

参考文献・リソース